「僕、浪人時代にいろんな仕事してたんでわかりますけど、事務とかって、大変っすよね。
潤滑油っつうか、みんなが仕事しやすいようにするのって、一番気ぃ使うし。
バカじゃやれないっすよ。
瑞季さん、すごいっす」


カツオくん、ナイスフォロー。
私、この際カツオくんの彼女になろっかな。


「そんなすげえもんじゃねえよ、な?」


ニヤニヤしながら私の顔を覗き込むバカカレシ。
さっきから何なの?
紅(他の女)の前で彼女を貶めるってどういう趣味なの。
謙遜なら自分をネタにしなさいよ。


イライライライラ。

拓のスマホに紅の名前を見付けてから、いつもにも増して私は不機嫌だ。
眉間に皺が寄って不細工な顔になっていないだろうか。
それすらもどうでもよくなるほど、徐々に苛々に飲み込まれていく。

空を見上げれば、憎らしいほどに快晴だ。
ああ、私の背中に羽根があったのなら、ここから真っ直ぐ空に向かって飛んで行きたいわ。
それであの雲の上で昼寝するの。
フワフワフワフワ。
いい気持ち。



「でも、残念だなあ。
わたし、タクシさんのこと、ねらってたのに」


ブッ!

現実逃避で空中を浮遊していた私の心は、紅の一言で一瞬にして地上に戻る。

な、な、なにを!?


「ほー」


当の拓は、感心したような感嘆の溜め息。
意味わかんないんですけど。