「タクシさん?」


私の背後から、まるで鈴が鳴るような声。


「おー、べに」


べ、に。
拓の口から発音されたのは、昨日私を眠らせてくれなかった、憎らしい言葉。

恐る恐る振り返ると、そこには驚くほど華奢で小柄な女の子が立っていた。
大きな瞳。
離れていても分かるくらい、濃く、長い睫毛。
ベリーショートで猿みたいな頭なのに、個性的でよく似合っている。
大きな楕円でプラスチックイエローのイヤリング。
紅色の、シンプルなワンピース。

彼女……べに、は、真っ直ぐに私を見詰めている。



「あ、べに、こちら、たっさんの彼女の瑞季さん」


「あ、あ、ど、ども」


カツオくんの突然の紹介で、慌ててどもっていまう私。


「はじめまして。
わたし、倉端紅です」


それとは対照的に、凛とした態度。

く、ら、は、た、べ、に。
心の中で繰り返す。
繰り返して、もう一度彼女を見る。

吸い込まれそうな、白い肌だ。
ああ、自分が嫌になってしまうほどに。


「タクシさん、彼女さんいらしたんですね。
知らなかったあ」


紅(すでに呼び捨て)が、どこか少し残念そうにしながら拓に媚びた視線を送る。

おいおいおいおいおいおい!拓!
私の存在。
まさか、隠してたのか!?