何とも身体が辛く、じっと座っているだけなのに発狂しそうな感覚に襲われる。訳が判らない。彼はたまらず、教室を出、屋上に出た。

 ――どうしちまったんだ……?

 漠然と襲って来る大きな不安。快は手摺に手をかけ、眼下に広がるグラウンドを見下ろした。自分の体の中で、訳の判らない"何か"が起き始めている。それだけが、快の中で確かな感覚だった。

 これを境に、彼はそれまで何の問題もなくこなせていた学校生活が、困難になった。



 瀬奈は、突然自分に指一本触れなくなった快に、不安な日々を送っていた。

 ――嫌われた……? あたし、何かした……?

 真面目でしっかり者の快に比べると、ずぼらで大ざっぱで男勝りな瀬奈。気付かぬうちに快に対して、何かやってしまったのではないかと、彼女は不安に駆られていた。

 何をしてしまったのだろうか? キスを拒絶されてから一週間。依然、二人きりになっても快は何もしてこない。最近はいつ部屋に行っても、ずっと横になっている。

 自分がずぼらだから、また興味なくしてしまったのだろうか?

 二年前に一度別れた時の事を思い出す。あの時は、ずぼらで男勝りな瀬奈に快が愛想を尽かしての破局で、瀬奈は何日も泣き暮らした。

 気をつけなくてはいけない。もう二度とあんな思いしたくない。そんな事を思いながら、瀬奈は大きく溜め息をつき、窓の外の曇り空を見上げた。

 そこそこ身長もあり、生まれつきの茶色の髪を胸まで伸ばしている瀬奈だが、見た目と性格はかなり違っている。

『たまにはスカートはいてくんない?』

 快にそう言われてしまう程、服装はカジュアルで、アクセサリーも女の子らしいかわいい物は好まず、持っているのはいかついシルバーアクセばかりで、メイクやファッションには興味すらない。制服以外では常にデニムを好み、靴もいつもスニーカーである。

 ――この間は単に"疲れ"だと思ったけど、少し違うのかも。今夜にでも訊いてみよう。

 考えていても不安が膨らむばかりで落ち着かない。瀬奈はクローゼットの中の、唯一持っているデニムのスカートを見つめながら、快を想った。



「快、もう食べないの?」

 夜、夕食に殆ど手をつけずに立ち上がった快に、母親の紗織(さおり)が心配そうに声をかけた。

「ごめん……何か……欲しくなくて」

 快は小さな声ですまなそうにそう言うと、うつむいて自分の部屋に戻って行った。

「快。どうしたのかしら」

 全く手付かずの食事にラップをしながら、紗織はふと、最近、快が弁当を残している事を思い出し、手を止めた。

「……」