「どうしたの?」

 不快感に襲われた数日後の日曜日。快の部屋にやって来た瀬奈は、ずっとベッドに横になっている快の顔を心配そうに覗き込んだ。

「元気ないね」

「ん……」

 元々無口な快が、今日は本当に貝になっている。瀬奈は仕方なく、映画のDVDを見始めた。

 いつもなら二人きりになるとちょっと甘えん坊になり、背中から瀬奈を抱き締めてきたり、キスをしたり、愛し合ったりする快が、今日はまだ何もしてこない。手を出されたい訳じゃないが、普段とは違う様子が何となく不安で、映画を観ていても落ち着かなかった。

 二人が所属する陸上部はインターハイの常連で、県内でもトップクラスの実力をほこっている。快は短距離、瀬奈は中距離で、合同のウォーミングアップが終われば、練習中に快と顔を合わせる事は少ないが、練習のハードさは、いちいち目にしなくても判っている。

 快は何事にも真面目だから、さすがに疲れているのかもしれない。そう瀬奈は思った。

 真面目な快と、どちらかと言えば自分の好きな事以外は不真面目で大ざっぱな瀬奈。周囲から見ればくっついたのが不思議な二人。実際に一度別れたが、すぐによりが戻り、それ以降はうまくいっている。

「ねえ快」

 DVDを見ながら瀬奈が快に話し掛ける。

「ん……?」

 鈍く返事する快に瀬奈が自分から顔を寄せてみた。が、唇が触れ合う前に、快が横を向き、瀬奈は静かに息を呑んだ。

「ごめん……」

 瀬奈から視線を逸らすように寝返りをうって快が謝る。「ごめん……。何かそんな気になれなくて」

「うん……」

 どう返事していいか判らず、瀬奈はそう言った。キスを拒絶された事はもちろんショックだが、それ以上に、何となく冴えない快が心配だった。

 "不快感"に続く小さな"異変"。が、まだこの時の二人には、それが"病気"だとは思わなかった――。



 翌日の月曜日、いつも通り登校した快は、教室に入った途端、再び"不快感"に襲われた。

 席に着き、机に手を付く。が、不快感は治まらない。

 ――一体何だよこれ……。