「拓史、今、仕事は?」


「変わってないよ、看板屋のバイト」


「 30でバイトか……
拓史、教師に戻る気はないの?
せっかく教育学部出てるのに」


「ないよ。
自称芸術家から脱却したとしても、拓が教師に戻るってことは、ない」


「だよね……」



明日香は、黒くまっすぐな髪を右手の人差し指で弄びながら、ため息をついた。
明日香はいつも、クレオパトラみたいな髪型をしている。
1年経ってもそれは変わらない。
そしてそれが、とてもよく似合う。
顔も身体もシャープで、背丈は小さいけれど姿勢もよくてモデルみたい。
黒や白の服を、バッチリと着こなす。
ジャパニーズビューティー。
ニューヨークでは、さぞかしモテたことだろう。

それに比べて私は、お洒落にも縁遠い。
下手すると、ナチュラル系ショップで働いている、母親のお下がりを着ることもある。
髪は伸び放題で、頭の上で大きなお団子をつくっているだけ。
だいたいいつも、ラフなシャツにデニム、加えてハイカットのスニーカーだ。