「どうしたの? じゃないでしょ? 
 この前あれだけ言ったじゃない。好きにならないでって」 

「そうよ。桜木さん、約束したじゃないの」

「それ、破る気?」

 矛先が緋色に向く。

 わたしではないんだね。苦笑。


 標的は緋色。まあ、いいけれど。

 鬼のような形相でみんなから詰め寄られた緋色は、
 ビクッと体を震わせ、俯いた。

 恐怖? を感じた?

 体をこわばらせて自分の体を抱きしめている。

 いつもの緋色じゃない。
 こんな緋色を見るのは初めて。

 日頃、あんまり物事に動じない緋色も、
 人の悪意には弱いらしい。

 これまで周りから
 たくさんの愛情をかけられて育ってきた彼女には、
 負の感情は耐え難いのかもしれない。
 


 かわいそうに。