恐らく仕事着なんだろうけど、真っ白のTシャツに下も白のパンツ姿で腰には、同じく白い色した所謂カフェのマヌカンエプロンのようなものが巻かれていた。


長身の彼が着ると、地味な仕事着も特別なものに見えた。


そして、切れ長の目に筋の通った鼻、引き締まった口元と、全体にキリッとした顔立ちに良く似合っている和菓子職人の帽子を取ると、パラパラとそれまで、帽子の中に隠れていた、前髪がおりてきた。


短髪でサラサラとした黒髪が緩やかに吹く春の微風になびいた。


それだけでも十分なのに……


「どう?いっちゃあなんだけど、俺は昔からモテる。」


と、自信ありげに笑った顔に思わず″ドキリ″とした。


「ど、どうって言われても、人それぞれ好みってものがありますし……」


照れて素直に認めれない。


「だな。まぁ、確かに好みはあるか。」


「そ、そ、そーですよ!私にだって好みはあります!」


いや、もうめちゃ、好きなタイプだけど……


でもさ、性格最悪じゃん!


口悪いし、乱暴だし、よくこんな人があの店にいるよね?


一体、店で何やってんだかーーー


なに?


やって………………んだか?


って、


「もしかしてっ、あなたが和菓子作ってるの?」


「なんだよ、
急にでけぇ声出すなよ。見たまんまだろ?こんなんきて、会社行くかよ。」


「ですよね……はっ!会社っ!私、休憩中だったんだ!」


慌てて腕時計を見るとーーー


「うぎゃぁっ!もう休憩時間とっくに終わってるーーーーっ!じゃぁ、これで失礼しますーー」


って、行こうとしたら、手を掴まれた。


「な、なに、するんですか?は、離してっ!」


「やだ。こっちの話は終ってねぇだろ?」


「やだって…。そんなこと知りません。ちょっと、本当に止めてください!人も見てるじゃないですかっ」


花見がてら川沿いを散歩している人たちの視線が集まっていた。


「大丈夫でーす。痴話ゲンカですから。ご心配なくーー。」


「なに、勝手な事を。兎に角、会社に戻らなきゃ。」


「お前の会社どこ?」


「えっ?なんであなたに教えなきゃいけないのよっ!」


手をふりほどこうと


「じゃ、手離さない。」


「ちょっと、悪ふざけ本当に止めてください。」


「悪ふざけしてる顔に見える?」


うっ、その整った顔で見つめられるとーーー


「わ、わかりましたっ!すぐそこの文具メーカーの会社で
事務やってます!ねっ?だから離して。」


「嘘じゃねぇだろーな?」


「この状況で嘘つけるほど器用な人間じゃありません!」


「確かにな。」


その瞬間、漸く、ぱっと手を離して貰えた。


「ほら、行けよ。」


「言われなくても行きますっ!」


私は会社へと急いだ。


後ろの方で、


「今日、帰りに待ってるからなっ」


と言う声も聞かずに、


ただ、急いで走っていった。