「確かに、ねえ。

あの子じゃ、ちょっと―――。

麻友理さん、負けてるもん。」


「こら、傷口に塩、塗り込まないで。」


そうだよね―――。


玲に向けるあの笑顔…。

航太の気持ちが痛いほど伝わってくる。

何で、あの頃の私には、わからなかったんだろう…。


「卑怯な手、使って…、引き裂いたんだ…。

真剣勝負じゃ、相手にならなかった…から。」


傲慢、だった―――。


二人の人生を狂わせてしまったけれど。

もう、玲も航太も前を向いて生きている。

私だけが、引きずった、まま。


「この中に、私もいたかった…。」


小さな呟きも、ダイキ君がちゃんと拾ってくれる。

今の私には、それがすごく有り難くて…。

自分で自分をギュッと抱きしめながら、階下の様子に目線を泳がせる。


「忘れ…られない…んだもん。

航太の顔も、話し方も…。」


「別に忘れる必要なんて、ないでしょ。

それはそれで自分の歩んできた道なんだから。

麻友理さんの今は、過去があるからでしょ。」


「そうそう。

記憶を消すんじゃなくて、増やしていけばいい。

そしたら、自分を見つめ直した時に、失敗も成功も大切なプロセスだったってわかるから。」


「…泣かせないでよ。」


顔を覆って項垂れる私に、二人の優しい声が沁みてくる。