「な、なに……なんで泣いてるの」
「私……結婚やめようかな」
「え? なっ……どうしたの?」

思わぬ発言に、持っていた鞄を落としてアタフタと歩み寄る。

「いろいろあるのよ。彼氏も作らず、一人で自由にしているお姉ちゃんにはわかんないと思うけど」
「人が心配しているのに、その言い方はなんなのよ! 私だって好きで一人でいるわけじゃ……」

“ない”と言い返せなかった。

合コンや紹介は気が乗らないと言って行かず、いい人がいないと決めつけて周りの人を深く知ろうともしていない……寂しい独り身を選んでいるのは自分だ。

もう少し彼氏を探す努力をした方がいいのかも。せめて言い返せるくらいには。

翌日。会社へ行くと暑気払いの話が出ていた。

いつもなら断るけれど、今回は参加してみようかと思った。なのに、正社員の女性に「無理しなくていいよ」と言われてしまう。

結局、参加するとは言いづらくて私は帰ることにした。

やっぱり私は一人がお似合いなのかも。

会社を出ると、ふいに寂しさが込み上げてくる。

頭によぎるのは樹さんの柔和な笑顔。あそこには行かないと思っていた。

でも、もう一度だけ。

足は自然と、彼がいるカフェへと向かっていた。