ケータイ小説 野いちご

シスター・オルランドへの手紙


と、リルが、アンの腕をそっと揺すった。
ちいさく手振りを交えてくちびるを動かすと、アンはすぐに、リルの言いたいことを察する。
「あら、良いわ。そうしましょうね。リル」

アンがリルに応じた言葉に、オーガストが反応する。
自分とリルに視線を向けた夫に対し、アンがこう返した。
「今日は午後に、リルの新しい長手袋を誂えにいってきますわ、オーガスト。この間、あなたに作ってもらった夜のドレスに合うのが欲しいんですって」

……新しい長手袋だって?
これまで、一度だって晩餐会にもダンスにも、乗り気になったことなど無いくせに?
急にそんな事をいいだした妹の言葉に、オーガストの眉間の皺が、さらにまた深まった。

リルまで、夜会の開催に賛成という訳か?

オーガストは猛烈に不満げな様子で、妻に返事もせぬままに、席を立ち、部屋から去っていった。

そんなオーガストの背を、不安げに見つめるリルに、アンが「気にしなくて良いのよ」と囁きかける。

と、テディがナプキンを手に席を立つと、ごく礼儀正しくこう言った。
「レディたち、ちょっとダチェット伯爵の様子を見てきますよ」

本当に。なんて大きいのかしら、この人って……。
立ち上がったテディを見上げて、リルは、思わず心中で独りごちる。

アンの容認の頷きを得て、テディも朝食の席から去っていった。

「お昼を済ませたらすぐ、出かけましょうね? リル」
アンはリルの手をそっと握りながら、微笑みかけた。

同じくちいさな笑みで応じながら、リルはすこしだけ、やさしい義姉に申し訳なく思う。

手袋など、リルは全然欲しくなかった。
晩餐会にもダンスにも、興味は無かったし、本当は出席したいとも思っていなかった。
そんなものは、兄オーガストが言うように「馬鹿騒ぎ」のように思えたし、まるで乗り気なんてなれなかった。

リルは、ダチェットの館を出る口実が欲しかったのだ。
シスター・オルランドへの手紙を出しに行きたかった。
使用人たちはきっと、オーガストに命じられた執事から厳しく言いつけられているに違いないのだ。
リルが投函を頼む手紙を留め置くようにと。

だから街まで行って、郵便局へと出さなければ、安心出来ないと。
リルは、そう考えていたのだった。

< 33/ 97 >