「俺、もう行くわ」


水城くんはそう言って手を伸ばした。

その手は私の頭をポンポン、と軽く叩いた。


そんな仕草にドキッと胸が高鳴る。


そんな事にも気づかず彼は坂を下りて行った。


それと同時にガンッと頭を強くぶつけたような衝撃が走った。


頭の中で何かがフラッシュバックする。

楽しい記憶。

ドキドキした記憶。


そして、押しつぶされそうな辛い記憶。


あと、なんか、知ってる。

さっきの手の温もり。

呼吸が荒くなる。


ドクン、ドクン、と脈が速くなる。


どうやって家に帰ったか覚えていない。

多分、ゆっくり一歩一歩歩いて行ったのかもしれない。

ベッドに入った時に辺りはもう暗かったから。

時間をかけて歩いたに違いない。

そして気がついたら家の玄関にいて、おばあちゃんが不安そうな顔をしていた。

熱を測らされてベッドに入っていた。


目を閉じると何か、暗闇に落とされていくような感じがした。