影がのびると、日暮が鳴きだす。
夕闇が庭を覆う頃、ボクは夕飯後の運動をかねて飛び回るのが日課だ。

おばあちゃんは雨戸を半分だけ閉じて、ボクが遊び疲れるのを待っている。
そして、すっかり満足したボクがタタキに上ると、ゆっくり屈んでヨイショと言う。
膝の上に乗せられたボクは、撫でてくれる心地よさに喉で応えて、体を預けるんだ。
ボクはこのひとときが一番幸せだ。

一日が終わる前に、ボクらはたくさんお喋りをする。

今日あったこと。
明日の天気。
ご近所さんのことや、たわいもないこと。
おばあちゃんの話にボクは耳を傾ける。

おばあちゃんには家族がいなかった。
旦那さんも成人した息子さんも、みんな戦争に行って死んでしまったのだそうだ。
「なんで、人を殺すのか」
そういって、おばあちゃんは時々泣いている。

この間、薄明かりに光る金の目を、十五夜みたいとほめてくれた。
ボクは本物の満月を見上げてふと思った。
こうして遠い天を仰ぎ、おばあちゃんは何を思うんだろう。
かさかさで、少し太くて短い指に、ボクは頭を摺り寄せた。

隣の町に、空襲があったらしい。
ずっと変わらなかったこの場所に、不穏な影が差し始めてた。