「何回使ってもいいし、夜中でも早朝でも、君の来たい時にどうぞ」
「私が来たい時……ですか?」

営業時間は決めていないの?

首を傾げると、色っぽく瞳を細めた男が、耳元に唇を寄せてきた。

「もちろんここが嫌なら、俺の家で夜明けのコーヒーでもいいよ」
「なっ……え、遠慮します!」

低く甘い声で囁かれ、顔が熱くなる。

この男が言うと冗談に聞こえない。私が断ると、男は「残念だな」と大袈裟に肩を竦めていた。

彼の言動はともかく、行きつけのカフェができるというのは、家にも会社にもない自分だけの居場所ができたようで嬉しい。

しかも店の人はかなりカッコイイなんて。胸を弾ませていると、店の扉が開き、スレンダーな身体に小さな顔の美しい女性が入ってきた。

「樹、なんで電話に出ないのよぉ」

“樹”とは男の名前だろうか。

「あ、茜。今日来る予定だっけ?」

二人は名前を呼び合う親しい関係らしい。……彼女、いるんだ。

途端に、さっきの冗談で喜んだ自分が恥ずかしくなる。

それでも握りしめたチケットが自分の居場所に通じるものだと思いたかった。