「だって今日から私、仕事ですよ? 間違えて“龍之介”なんて呼んだらマズいじゃないですか」

「お前が間違えなきゃいいだけの話だろ。会社以外の所では、ちゃんと名前呼べよ」

「そんな……」


勝手なこと……と言おうと思ったけれど、このあと二人っきりになる機会なんてあるのかなぁ。


私の気持ちは───…


正直、わからない。


だって、龍之介の気持ちがわからないんだから……。




会社に向かうために、龍之介の車に乗り込む。


二日前の雨の時と、昨日病院に連れて行ってもらった時。もう二回乗って、ちょっと乗り慣れてしまった助手席。


当たり前のように座って龍之介を見た。


「何?」

「今回のこと、誰にも言わないで下さいね」

「何で?」

「何でって……。どんな理由があったとしても、私が二日も堤所長のところで過ごしたなんて言ったら、良からぬ噂が立つじゃないですか」

「また“堤所長”って言ったな。 どうしようかなぁ~、喋っちゃおうかなぁ~」


お前は子供かっ!! 本当に面倒臭い。


わざとらしく派手に溜息をつくと、呆れたように龍之介を見た。


「龍之介。お願いですから、誰にも言わないで下さいね」

「菜都がそこまでいうならしょうがない。黙っててやるよ」


偉そうに、でも楽しげにそう言うと、ゆっくりと車を走らせた。