なんて、いきなりされたキスに疼くなんて、どうかしてるっ。あれは私を黙らせるためだけにした、愛情のないキス。いちいち気にしちゃダメッ。


自分にそう言い聞かせると、もう一度記憶を辿り始めた。


そう言えば、堤所長の口元に傷があって。それをどうしたのかと聞けば「女に噛み付かれた」とか何とか言って、私をからかったんだ。いきなり拓海くんのことも持ち出すし……。


なんかもう何がなんだか分からなくなって、結構泣いたよね、私。そしたら堤所長、呆れてように「あっそ」って……。


何が「あっそ」よっ!! いつも無関心な返事しちゃってっ!!


なのに優しく頭を撫でてくれたりするから、調子狂っちゃうじゃない……。


ほんといろいろあって気が動転しちゃってるのに、お腹は空いちゃうし。


そうだっ!! それで堤所長と一緒にデリバリーのピザを食べている途中で気分が悪くなってきて。ふわっと身体が傾いた瞬間、堤所長が私の名前を叫ぶのが聞こえて……。


そこで記憶が途絶えているということは、どうやら私は体調不良で意識をなくしたみたい。


と言うことは、このふかふかのベッド。良い香りがするこの部屋は……


堤所長の家の、寝室!?


そして、このおでこを冷やしてあったタオルは、堤所長が用意してくれたもの?


寒さとは違った意味で身体を震わせると、重たい身体を恐る恐る反転させた。