親父は振り返り、鼻で笑った。
「真実を言ったまでだがね。それにしてもなんだね、その馬鹿みたいな格好は?いい年齢して恥ずかしくないのか?」
「うるせえ!おめえこそなんだそのボロッボロの空手着は?穴だらけじゃねえか。穴からスネ毛とかパンツの花柄が見えてんぞ!」
「これは私の普段着だ。私は辛い鍛練に付き合ってくれたこの空手着を誇りに思っている。確定申告にも、この服装で行く」
「おれだって、先代アトミック南斗から受けついだ、このマスクとパンツを誇りに思っているぜ!カミさんにレインボーブリッジでプロポーズした時も、このスタイルだったんだ!」
……いろいろとつっこみたかったが、面倒なので我慢した。


「取り消せ」
アトミック南斗が、声を低くして言った。
「何をだ?」
親父が聞き返す。
「おまえが言った、プロレスへの侮辱を、全てだ」
「嫌だと言ったら?」
「首を折る」
「ほう」


空気がはりつめた。


殺気が、あたりの雰囲気を包みこむ。


それを感じとったのか、遠くにいた数羽の鴉が急に飛びたっていった。


アトミック南斗と親父の体から、目に見えない気迫が滲み出していった。


二人は、しばらく微動だにしないままにらみあった。


どちらかが、少しでも動けば、・・・・・・始まる。


にらみあいは続いた。


……十秒。


……二十秒。


…………一分。


親父が、口を開いた。


「プロレスは、八百長だ」