「親父!いきなり何を言い出すんだ!?」
健介君が怒鳴ります。
倍達さんは、厳しい表情をして言いました。
「健介、まったくおまえは何を考えているんだ?代々木流空手に昔から伝わる修行の聖地であるこの場所に、こんなくだらない女を連れてくるとは」
「……ちょっと待てよ。いくら親父でも、言っていいことと悪いことがあるぞ」
健介君は、拳を握って倍達さんに詰め寄りました。


「待って、健介君」
私は二人の間に入りました。そして倍達さんを見上げて、聞きました。
「あの、おじさん……。私の何がいけないのでしょうか?気にいらないところがあったなら、教えてください。直すよう、努力します」
「無理だな」
倍達さんは、断言しました。
「そんな……、やってみないと、わからないじゃないですか!…………もし、わたしがさっき健介君にえっちなことしようとしたことを怒ってるなら…………その…………これからはできるだけ我慢しますから…………」
恥ずかしくて、声が尻すぼみになってしまいました。
「何をよくわからないことを……?俺が君を健介に近付けたくない理由は、たったひとつだ。そして君はおそらく、それにプライドを持っている。だから直すことなどはできまい」
「だから何なんですかそれは?はっきりと言ってください」
私は、倍達さんをにらみました。
倍達さんは、ため息をついて言いました。


「理由は単純だ。君がプロレスラーだからだよ」