俺は南斗さんをどけると、立ち上がってかまえた。
「南斗さん!逃げて!」
しかし、南斗さん動かなかった。そして呆然とした表情で叫んだ。
「お父さん!なんでこんなところにいるのよ!?」


……おどろいた。


「お父さん?この変質……いや、このおじさん、南斗さんのお父さんなの?」
「うん、プロレスラーのアトミック南斗。私のお父さんよ。ちょっとお父さん、なんでこんなところにいるのよ!?」
南斗さんのお父さん、アトミック南斗は、胸筋をひくつかせながら答えた。
「おうおうおう!昨日、田山に教えてもらったんだよ!日曜に晶が男と二人きりで山へ行くってな!それでおれは心配になって後をつけてきたってわけよ!」
「田山のヤツ、余計なことを」
南斗さんは舌打ちをもらした。
俺は聞いた。
「あの、ついてきたって、あの崖を登ってきたんですか?」
尾行されている気配は感じなかったのだが。
「いや、俺ももう年だからな!あんな崖はきつくて登れねえよ!だから地中を掘ってここまで登ってきた!」
「…………」
そのほうがきついのではないかと疑問に思う間もなく、アトミック南斗は俺につめよってきた。
「おうおうおう!さっきまで、地面から首だけ出しておまえらの様子を見張ってたんだけどよ!おい、小僧!てめえ、うちの大事な一人娘に何してくれてんだゴラアッ!!」
「何って、別に何も……」
「嘘つけぇっ!エロいことしようとしてただろうが!?」
「お父さん!あれは違うの!その……」
南斗さんがあわてた。
「晶は黙ってろっ!!」
そこで俺は、アトミック南斗がひどい勘違いをしていることがわかった。
「おじさん、あれは違うんです」
「ああ!?何が違うってんだ!?」
「さっきのあれは寝技の練習なんですよ」
「寝技だぁっ!?適当なこと言ってんじゃねえぞ!」
「本当ですよ。ねえ、南斗さん?」
「えっ!?あ、えっと、その、………あー、う、うん、そうね」
なぜ口ごもる。
「おうおうおう!信じられねえなあ!」
「本当ですってば!よく考えてくださいよ。こんな綺麗な自然の中で、そんな下品でやらしいハレンチな変態じみたこと、するわけないでしょう!そんなこと考えるやつは猿ですよ猿!ねえ、南斗さん!?」
「………………………………………………………………そうね」
なぜか南斗さんは汗ダラダラだった。
「うるせえ!うるせえ!うるせえぇぇっ!!そもそも俺の大事な大事な一人娘の晶がよお!男と二人きりでなんかしてるってのが許せねえんだよおおっ!!てめえはぶっ殺す!!」
アトミック南斗はジャイアンレベルの暴言を吐くと、俺の頭をむんずと掴み、思いきりぶん投げた。


俺は、五十メートル、飛んだ。


なんか最近よく投げられるなあ……俺。
宙を舞いながら、ぼんやりと思った。
落下した。
「ぐがっ」
激しい衝撃が背中に走る。


その時だ。


「うちの息子に何をするか!貴様ぁぁぁぁぁっ!!」

鋭い声が辺りに響いた。
空から、俺の親父が降ってきた。