俺は南斗さんに向かって飛びかかった。南斗さんは巧みな動作で、それをかわした。そのあと、何度も捕まえようとしたが、ぎりぎりのところでよけられてしまう。
「やだもう、そんなに必死になっちゃって。…………うふふふ、じらしちゃうんだからあ」


・・・・・・何を言ってるんだ、この女は?


サイドポジション、ハーフガード、バックマウント。上になったり下になったりして、次々と態勢が変わるが、なかなか南斗さんの間接をとることができない。さっきから何度も腕を狙っているのだが、南斗さんは余裕の、いや、むしろ楽しんでいるかのような表情でそれを防御してくる。
「やだ、健介君ったら、二の腕フェチだったのね……。そこばかり何度も触っちゃって……。やらしい!」


・・・・・・本当に何を言ってるんだ、この女は?


まあ、南斗さんの意味不明な発言は、いまに始まったことではないが。


俺は再びつっこんでいった。
すると、南斗さんは、寝転がった体勢から、器用にジャンプして俺を飛び越えた。
あわてて俺が仰向けになると、彼女の俺の腹の上に落ちてきて、そのままそこに腰をすえた。
しまった。マウントポジションをとられた。
「捕まえたっ。うふふ、めちゃくちゃにしてあげるからねえ……」
南斗さんは色っぽく囁くと、舌なめずりをした。


ヤバイ。ボコボコにされる。
俺は両腕で頭をガードした。その時だ。


「てめえ、うちの娘に、何さらしとんじゃゴラァァァァッ!!」


大気を震わすかのような怒鳴り声が響いたかと思うと、すぐそばの地面が、ドゴォォォォンッ!!と爆発した。


大量の土煙があがった。


そして、地面の下から、一人の男が飛び出してきた。
俺と南斗さんは、あんぐりと口を開けた。
巨大な男だった。身長は二メートル以上はある。
裸にパンツ一丁だった。全身がものすごい筋肉だ。パンツは黒いブリーフ型だった。
頭部には、頭全体覆う形の派手な柄のマスクがつけられていた。
声からすると、年齢は五十代くらいか。


……変質者だと思った。