それはあの時と同じ。堤所長と初めて出会った日に、頭にポンポンッと触れた優しい感触。


今目の前にいる堤所長は、あの時の堤所長と性格はまるで正反対の人なのに、この優しい感触に、やっぱり同じ人なんだと思い知らされる。


ホントにワケがわからない。堤所長は私に、何を求めているんだろう。


「なぁ菜都、腹減らない?」


何も求めてないか……。


「……減りました」


そう言えば、まだ晩御飯食べてなかったんだ。なんかもう今日はいろいろあり過ぎて、そんなことスッカリ忘れてしまっていた。




それから一時間半後。私は堤所長とダイニングテーブルに向かい合い、デリバリーのピザを食べている。


堤所長が勧めてくれた赤ワインが美味しすぎて、ついつい食べ過ぎてしまう。


こんな時でも食欲旺盛な私って、おつむの回路がまだまだ子供なのかもしれない。


しかしさっきから二人とも黙々と食べていて、一言も会話をしていない。さすがに気まずくなってきて、ピザを食べる手が止まってしまった。


「何? もう食べないのか?」

「は、はい。お腹いっぱいで……」


まんざら嘘でもなかった。どうもさっきから身体の調子がおかしい。食欲はあるんだけど、頭がボーッとするというか身体に力が入らないというか。


眼の前にいる堤所長の顔がぼやけだしたかと思うと身体がふらっと傾き、「おいっ菜都っ!!」と堤所長が叫ぶ声が聞こえたのが最後、意識が途切れた。