しばらく、沈黙が流れました。


「やめとけよ」
田山がつぶやきました。


「え?」
「おまえなんかが、まともに恋愛できるわけがねえ。絶対無理だ。さっさと別れちまったほうがいい」


さすがに、カチンときました。


「なんであんたにそんなこと言われなきゃいけないのよ!?あんたには関係ないでしょう!!」
「あの癖はどうするんだよ?」田山は冷静に言い返しました。「おまえの、緊張したら、プロレス技を出す癖。あれ、どうすんだよ?相手をケガさせちまうだろ?」
「大丈夫よ。彼は、健介君は空手部のエースなんだから、私がプロレス技を出しちゃっても、うまくよけてくれるわ」


「でも、もし当たったら、どうすんだ?」


田山の言葉に、私は口ごもりました。


「それは……」
「空手やってるっつってもよ。格闘家ってのは、よける練習や防御する練習はしていても、俺達プロレスラーみたいに技を受ける練習はしてねえだろ?そんなヤツが、万が一おまえの技をモロに喰らったら、どうなると思う?下手すりゃ…………………死ぬぞ」
「……うるさい」
「悪いことはいわねえ。やめとけって」
「うるさい!うるさいうるさいうるさい!あんたなんかに!あんたなんかに何が分かるのよ!わたしだって分かってるわよ!自分が危ないって!恋愛したら危険だって分かってるわよ!でも、好きになっちゃったんだもん……。わたしだって……普通の女の子みたいに……、好きなひとと手をつないだりとか……一緒にいろんな所に遊びに行ったりとか……したかったんだもん。……わたしだって……わたしだって……」


気が付くと、私は泣き出していました。


「ごめん」
田山はうつむいて謝りました。
私は田山に背を向けて走り出しました。


田山のバカ!バカバカバカバカバカ!
せっかくのワクワクしていた気持ちが、あのノータリンのせいで台無しです。
絶対!絶対明日のデートは楽しいものにしてやるんだから!