6月末に突然聞かされた、所長交代の話。


それは私に、4年間も待った“夢”を運んできてくれた。


こんなチャンス、逃す訳にはいかないっ。


───堤所長とドラマみたいな恋をしてみせるっ!!───


これからは妄想じゃなく、妄想みたいな本当の恋を……。


そう心に決めたあの日から、3日目の金曜日の朝。
一番奥の席に陣取る堤所長を、時々窺い見ては溜息をつく。


堤所長のあの意味深な言葉の真意は、依然分からないまま。
と言うより、次の日から私も堤所長も忙しく、ほとんど言葉も交わしていなかった。


しかし今晩、この悶々とした気分が晴れるかもしれない、絶好のチャンスがやってくるっ。


「菜都先輩。今日の歓送迎会、十六夜(いざよい)で6時からになったみたいですよ」


私の横でファッション雑誌を読んでいた2つ年下の後輩、大瀬未歩(おおせみほ)が、指に髪を巻きつけながら面倒くさそうに話しかけてきた。