黒澤順一、彼は強い雨に車を走らせた。ワイパーと雨音は官能的に車内を満たし、彼の流すクラシック音楽と溶け合っていた。ヘッドライトは濡れたアスファルトに輝き、世界の影を示唆している。やがて向かう運命は、その中にも潜んでいる。
大学を卒業し、社会に出たが、学校で学んだ神々しい学問とは無縁になった。人は年をとる度に愚かになるのだろうか。
画家を目指しイタリヤに赴いた。しかし、社会はその事実とは無縁にシステムが造られている。
やがてビジネスにのまれ、少年のままの感性と希望を無くしていく。彼は、生きるために絵を描いて、楽しみの為でなくなった。
描きたい物はなんだったか、描く意味もわからない。
走らせた車は、それが浮かばない苛立ちの発散だ。

次の日に、水かさが増した川辺で順一は油絵を描く準備をしていた。岩肌は既に乾き温かみを持っている。俺の知り合いより温かいじゃないか。ふと自虐的な思惑が頭を過る。
自分は卑屈になった。
心は変わり、華々しい自然の営みは人工物に流れを委ねながら、そのままに流れ行く。我々の世界の中心が一体なんであるかを問いかけ、決して答えることはしない。責任のない思惑は甘さを持ち、この先までを手を引くように明日へ人々をよんでいる。彼の絵画は、芸術はそれを目指した。