こんな時期に季節感なく走り回ってる馬を見ると、お前は幸せそうでいいなってしみじみ思う。


いくらなんでも馬にはなりたくないけど。サラブレッド、大変そうだもん。


そんなある日の午後、俺は馬の脚を持ち上げて蹄の裏を掃除してる最中に、馬に長靴の上から右足を踏まれて、ベロッと親指の爪をはがす怪我をしてしまった。


ヌルヌルした感触で、確実に血が出てるはずの長靴を脱ぐ時の怖い事といったら。


とりあえずビッコをひきながら、年期の入った厩舎の中の休憩室に向かう事にした。


古びた木製のベンチとテーブル、そしてケバ立った畳の敷いてある二畳ほどの小上がりしかない狭い休憩室で確認すると、思ったよりも出血は少ないようだ。


しかしホッとしたのもつかの間、不幸な事に阿部さんに見つかってしまった。