「ねぇ、遥斗君。お願いがあるんだけど……」

あたしは家に入る前に遥斗君に言った。

遥斗君は不思議そうに首をかしげた。

「お願いって?」

「……さっきのこと、特に龍には言わないでほしいんだけど……」

「もちろん言わないよ。僕、意外と口固いんだよね~」

遥斗君はへらっと笑った。

「じゃあ、綾ちゃん。また明日、バイバーイ」


遥斗君はあたしに向かって手を振ると、きびすを返して来た道を戻っていった。

なんだ、遥斗君の家、あっちの方向なんじゃん……。

遥斗君の背中を見送りながら、自分のことを送ってくれたことに感謝した。

今は、今だけは、一ノ城さんのことに対する不安や怖さを忘れていた。