自由人で、好き勝手だと思っていたナツは、本当は、人よりずっと苦しんでいて。

チャラいとか夜遊びしてるとか勝手に思っていたけれど、私は何も知らなかっただけだ。



「ナツがいなくなるなんて嫌だよ!」

「うん。俺もまだまだ晴香と遊んでたかった。けど、もう、しょうがねぇじゃん?」


ナツは悲しそうに、でも精一杯で笑って見せた。


涙が溢れる。

どこまでも身勝手な私。



「仕事はもう決まってるんだ。肉体労働。給料いいらしい。今働いてるガソリンスタンドの先輩の紹介なんだけど」

「………」

「次に会ったら俺、ムッキムキかもよ。ボディービルダーみたくなってたりして。フライパン丸めたりとか?」


ナツはわざと明るく振る舞おうとするけれど、私が泣き続けるので、少し困ったような顔をして、



「まぁ、学校辞めたからって縁が切れるって話でもないんだし、何かあったら電話してよ」


微かに臭う花火の硝煙。

それは夏の終わりの匂いにも似て。



「好きだった。だから、ありがとな、晴香」


引き寄せられて、唇が触れて。

ファーストキスは涙の味だった。


ナツの腕も、唇も、震えていた。



「餞別代わりにもらっとくわ。怒るなよ? ばいびー」


だけど、最後はナツらしく、ふざけたことを言って、私に背を向ける。


ナツの馬鹿。

一生忘れられなくなっちゃうじゃん。



私は去って行くナツを見たくなくて、星のまたたく空を仰いだ。