少しの間、ぽかんとしていた先輩は。

私の意図が飲みこめたんだろう、はっと目を見開くと、再び怖い顔になり、低い声を出す。



「まだ頭冷やす必要があるみたいだね」

「十分冷えてます、おかげさまで」

「じゃあ、ゆっくり寝るといいよ、おやすみ」



また立ちあがりかけた先輩を、なんとしてでも食いとめようと胸にしがみついた。



「逃げないでください、嘘つき!」

「嘘なんて言ってない、離して」

「嫌です」

「あのね、そんなだからね」



子供、と言われる前に飛びついてキスをした。

お互い座ったままの体勢で、無言の攻防が続く。


顔をそむけようとする先輩の髪をつかんで、口を合わせる。

首に力の限り抱きついて、絶対に引きはがされまいとする私を、先輩がかなり本気で押しのけようとしているのを感じた。


ねえ先輩。

そうやってすぐに、次々誰かを好きになる。

もし万が一、もしも、もしもね。

もしかして、誰でもいいって気持ちが、少しでもあるなら。


――私じゃ、ダメですか。


しばらく防戦一方だった先輩が、ある時点から、あきらめたのがわかった。

ふいに抵抗がなくなり、怒ってしまったのかと一瞬不安になって、少し身体を離すと。

なんだか複雑な表情の先輩と目が合って、その感情を理解する前に、ゆっくりと唇が重なってくる。

首に回したままの私の腕を、なだめるみたいになでて。

最初は仕方なさそうに。

だんだんと優しく、語りかけるみたいにくれるキス。


時折、まだヘタな私のために、休みをくれる。

唇がかすかに触れるくらいの距離で、私が息を整えるのを待っててくれる。


いつしか先輩の腕が、私の身体に回されて。

きつく抱きあって、ひたすら重ねあうキスをした。