言いづらそうにしていたわりに、兄の声は、実直な性格を反映して、きっぱりしていた。

俺は母さんからしか聞いてないんだけど、という言葉は、私の耳をすべり抜けて、ぼんやりとしか理解できず。

そうなんだ、という自分のあいづちが、驚くほど他人事めいて聞こえた。



『当人から直接聞いたら、お前がショックでかいだろうからって、言うのをためらってたんだよ』

「お兄ちゃん、いつ帰る?」

『お盆だな。お前は?』

「お兄ちゃんに合わせて帰る。ねえ、駅で待ち合わせしてもいい…?」



何甘ったれてるの、と思いながらも、兄より先にひとりで家に帰る勇気が、どうしても持てなかった。

それを察したのか、いいよ、と兄が優しく言ってくれる。


どんな会話をして電話を切ったのか、もう覚えていない。

携帯を握りしめたまま動かない私に、みずほちゃん? と加治くんが心配そうに声をかけてくれた。



そっか、離婚しちゃうんだ、私のお父さんとお母さん。

この間、なんだか変な空気だったのは、そのせいだったのかもしれない。

最後の荷物だった私も手を離れた今、ふたりは自分の人生を歩くことに決めたんだろう。

いきなりでびっくりしたけど、そのこと自体はまあ、ついに我が家もかという感じで、意外と受けとめられてる。


私の意識は、別のところにあった。


どれだけショックを受けようとも、たとえ全然受け入れることができなかったとしても。



直接聞きたかった。




お母さん。