優美なカリグラフィでつづられた店名が結局読めなかった喫茶店で、いかにもなランチとコーヒーを楽しむ。

ぶらぶらと全部の路地に入りながら、じぐざぐに探索するうち、レコードショップを見つけた。

CDじゃない、本物のレコードだ。


B先輩のギターを思い出した。

あんなに弾けるなんて、相当練習してるか、昔からギターにさわっていたかのどっちかだ。

きっと育った環境の中に、当たり前にアコースティックギターがあったんだろう。


不思議な先輩。

探してる人って、誰ですか?

女の人ですか、男の人ですか?

見つけたら、何を伝えたいんですか?

私、何かお手伝いできること、ありますか?



「どうぞ、見てってちょうだい」

「あっ、ごめんなさい、すみません」



お店の前にたたずんでいたら、中にいたニットのベスト姿のおじさまが、わざわざドアを開けてくれた。

そりゃそうだ、しまった、やっちゃった。

私は古いレコードに造詣が深いわけでもないし、ジャケットにすら興味があるわけでもない。

同じ趣味を共有する人だけが立ち入っていいはずの場所に、足を踏みいれるのは申し訳なくて。

失礼しました、と頭を下げて、慌てて逃げた。


逃げながら、B先輩はあのお店を知ってるかな、と考える。

ああいうお店、好きそうだな、なんとなく。

教えてあげたら、喜んでくれるかな。


ねえ真衣子、気づくとB先輩が頭の中にいます。

これはいったいなんでしょうか。

話にしか知らない、例の、何かの始まりなんでしょうか。


でもね、真衣子、そもそもね。

私、男の人って、B先輩くらいしか知らないの。


そんなの、気になって当然だと思わない?







気がついたら、空は薄暗く。

ひんやりと肌寒い風が吹きつけていた。


ずいぶん奥まで来ちゃった。

もはやお店の並ぶ通りですらない。

ここ、どこだろうと思うけれど、私の特技のひとつに、方向感覚のよさがある。

どこをどう歩いても、東西南北と、ランドマークの位置がわからなくなることはない。