桜もすっかり緑色に変わり、開けられた窓から吹き込んでくる風もふんわりと初夏の香りが感じられる。



辻村くんが転校してきてから、早くも1ヶ月が経とうとしていた。



転校してきた翌日から本格的に練習に参加するようになった辻村くんだったが、やっぱりというかなんというか、他のメンバーとの実力差は歴然だった。



一つひとつのパスの精度。


トラップの上手さ。


一瞬の判断力。


まるで足に吸いついているようなドリブルに、初めて見た時は思わず息を呑んだほどだ。




『どうして彼、無名なの?』



初めてチーム内で試合をして、あまりに上手い辻村くんを見たとき、美涼先輩が本気で戸惑ったように呟いていたのをはっきり覚えている。


私も、本当にその通りだと思った。



何度か藤桜の試合は見たことがあるけれど、辻村くんが試合に出ていたことはなかったと思う。


辻村くんのポジションはMFで、守備と攻撃を繋ぐ役割。