「きゃっ」


ナナは、背伸びをしてタカの顔に自分のそれを近付けていた。額と額があとわずかで接触するほどに。当然ながら、二人の唇も。

慌てて後ずさりしたナナに、タカは苦笑いを浮かべた。


「だから、無駄だと言っただろ? どう頑張ってみても、僕の心は読めないよ?」

「ど、どうして……?」


ナナは激しく動揺した。なぜこの青年は自分の特殊な能力の事を知っているのか。どうしてこの青年には、その能力が通用しないのか。その二つの謎のために。


「その二つの謎に、今すぐ答えてあげるよ」

「えっ? あなたも人の心が読めるの?」

「まさか。状況から推測しただけさ。簡単な事だけどね。でも、その前に座ろう? そこの座り心地の良さそうなソファにでも。僕は構わないが、君の体はかなり衰弱している」


タカの言う通り、ナナの体は弱っていた。父親の遺体を屋敷の庭に一人で葬り、その後はろくに食事を摂っていなかったのだ。