(男side)


「そなた………!
……行ってしまった………。」


あの娘に手を伸ばすも、あっと言う間に去ってしまった。



「……しかし……
あの娘………。」


我の正体を知る者は大抵、我に恐怖し恐れ逃げるのが普通だった。




だが、あの異国の娘は……違う反応を見せた。



あの娘は我にではなく、我を通した「何か」に驚き、受け入れまいと怯えていた。



それだけではない。




あの娘をこの目で見た瞬間、……何かが我を満たした。



それはいつもの暗いものではなく………



その逆で温かく、安心するような………




「懐かしい」と思うような、優しいもの。





何を懐かしんでいるのか、自分でもよく分からない。



ただ、「懐かしい」と感じるだけ。




あの異国の娘とは、初めて会ったというのにも関わらず、だ。





長く感情を感じなかった我の心が、「懐かしい」という感情に支配され、それを心地良いと思わせる、



あの異国の娘は……






ふと、離れた所に黒い布のような物が落ちているのを見つけた。



近づいて手に取れば、羽織のようだった。



妙な形をしているが……恐らく、あの娘の物だろう。


あの娘も奇妙な着物を着ていたから。





あの娘の顔が脳裏によぎる。



我にではない「何か」に怯え、我の心を満たした、原因の娘…………。












「……不思議な、娘だ……。」



小さく嘆いた我の声は、誰に聞かれるわけでもなく、













--静寂に、呑み込まれた。