「俺、帰るから。じゃあな、お疲れ。」


「おい夏綺っ、まだ話は終わってねぇぞ!」


呼び止める碧に取り合うことなく、部室を出る。


足早に駅へと向かい、タイミングよくやって来た電車に乗り込んだ。



…ったく、碧のヤツ…かなり興味津々って感じだったな。


あのまま付き合ってたら、いつまで経っても帰れなかっただろうし、強制的に話を終わらせてきて良かった…。


ふう…と安堵の息を零す。


頭の中には、笑顔で喜んでくれていた椎名の姿が、再び蘇っていた。


俺、完全に見惚れてたな…あの眩しい笑顔に。


試合に勝ったことより、椎名の笑顔を見れたことの方が嬉しいかもしれない。


フッと口元が緩む。


温かい気持ちが、一気に心の中を覆っていくのを感じた。


また見たい…。


もっともっと見たいな…。


椎名の笑顔。


車窓に差し込む綺麗な夕日を見ながら、そんな想いが駆け巡っていた。