「間違いないわ」
昼間見た、あのガードの男。
今はジャケットを脱いで左肩にかけ、ネクタイも緩めてはいるが。
茶髪が角を曲がり、ミサトも同じ角を曲がる。
その途端、一筋の風が吹いた。
「え?」
前髪がふわりと舞い上がり、同時に背後から気配を感じる。
そして振り返る間もなく、後ろから首に手をまわされた。
「Hi,Lady。俺に何か用かい?」
まさかこの男、自分の頭上を飛び越えて後ろに回ったとでもいうのか。
しかも、この自分が、簡単に後ろを取られるなんて。
この男、相当鍛練を積んだプロだ。
「だ…っ、誰よあんた」
「そういう君こそ、誰なんだい? 俺の後をつけてくるって事は…」
まさかとは思うが。
この男、ミサトが何者なのかわかっているとでもいうのか。
もしかして、昼間の狙撃のことも。
そこまで考えて、ミサトはごくり、と喉を鳴らした。
「…俺に惚れた??」
あまりにも的外れな男の言葉に、ミサトは思わずコケそうになる。
後ろから抱きすくめられる形になっているので、相手の顔は見えない。
微かに、そのシャツからは煙草の香りがした。
「君って…なんだか俺と同じ香りがするね」
耳元で、声が聞こえて。
ミサトは少したじろいで、それでも首に回された男の手を掴むと足払いをかけて、思いっきり身体を曲げた。
「う…わっ!!」
背負い投げをされたような形になり、男は地面に叩きつけられる。
「いっ…てェ…!?」
「ったく、何なのよあんた、それで本当にボディーガードなの?」
思わず口走ってしまってから、ミサトははっとして口を押さえる。
頭を振りながら起き上がった男は、どこか勝ち気な瞳でこっちを見ていた。