「梓ぁぁぁぁぁ♪」

元気な声が大学の庭に響く。
丁度庭に出ていた数人の大学生が苦笑しながら大声を出した娘と私を見つめた。
梓というのは、私のこと。
私は、鈴木梓(すずき あずさ)。
え?苗字が在り来たり?仕方ないでしょ。そういう苗字なんだから。

「…燐。アンタ、どんだけ声デカイの…。」

「だってぇ♪梓、また一人で講義終わったとたん出てっちゃうし。寂しいんだからねー?」

「はいはい…。」

私の腕に自分の腕を絡ませながら娘は微笑む。
髪は明るい茶髪。ゆるいウェーブが掛かっていて、色白。
大きな目がマスカラでもっと大きく見えている。
綺麗に塗ったネイルがキラキラと輝いていた。

「燐。で、どうしたの?」

「あのねっ♪今日、夜のお店行かない?」

…私は時々この渡辺燐(わたなべ りん)の考えが良く分らなくなる。
夜のお店?危ないに決まってるじゃない。
こんな可愛くて純粋な燐なんて…入店する前に食べられちゃうと思う。

「…また、どうして。」

「あのねっ♪変な人に絡まれてた時、メッチャ格好いい人に助けられちゃって。その人、名刺渡してくれたの。」

ピラリと財布からその名刺を出す燐。
…私は目を見開いた。

「…その助けてくれた人が、『NOTT(ノット)』っていう飲み屋のホストだったって訳?」

「その通りーっ!!」

…燐。
アンタ、どんだけ危ない目にあってるのよ…。
私が呆れてため息を吐いていると燐は悲しそうな目で私を見上げた。
ウッ…。上目遣いは反則よっ…。

「駄目かなぁ…?アタシ、一人で行くの怖いし…。梓ちゃんなら、一緒に行ってくれるかなぁ、と思って…。あ、無理なら無理でいいからね?!梓ちゃんに迷惑かけたくないし…。」

ったくもう。
何でこんな可愛いことばっか言うのよ…。

「…いいよ。一緒に行ってあげる。けどね?」

私は梓の鼻を指で押しながら言った。

「長い時間は居ないからね?少し飲んだら終わり。あーゆー店は高いって聞くし。いい?」