しばらくすると、他の生徒もぞろぞろと教室に入ってきた。クラスの生徒がほぼ全員席についたとき、誠は自分の机に入れてあったサイフが無くなっていることに気がついた。

「あれっ…サイフ……無い…」

誠は机を逆さまにしてみた。だが、出てくるのは少し汚れた教科書やノートだけで、サイフはどこにも見当たらなかった。

「何でや…体育の前はあったのに……」

そのとき、ふと麗菜の顔が頭の中を横切った。誠はゆっくり顔を上げ、麗菜を見た。

「…何見てんねん?」

麗菜は誠の視線に気づくと、ケンカ腰に言った。

「…麗菜お前、本間に保健室おったんか?」

「は?何が言いたいねん?」

「俺のサイフが無くなっとんねん!」

「あっそ。だから?」

「今日はクラス、欠席無しや。ほんで、体育休んだのはお前だけや」

「だから?」

「お前、どうやって教室入ったんや?教室の鍵は体育委員が持っとるはずやぞ」

「窓が開いてたんや。だから何やねん?」

「何で教室が開いてないときに、教室に戻って来なあかんねん?」

「それは……」

「何や?」

麗菜は口籠もった。

「おかしいやろ?何か理由があったんか?」

誠はそう聞くが、それでも麗菜は黙りこくっている。

「麗菜!」

誠が叫ぶと同時に、クラス中の視線を浴びた。