「ないっ!!!!!!!!!」

屯所中に大きい叫び声が響き渡ったのはまだ早朝だった。

ばたばたと慌ただしい足音が聞こえる。

そしてがらりと無遠慮に障子が開け放たれる。

「おい、総司!!!!」

「なんですか土方さん。騒々しい上に暑苦しいな。」

「てめえっ!ってそうじゃなくてお前、あれをどこにやった!?」

「あれ?」

僕はわかっているがわざと知らないふりをする。

「貴様とぼけるな!!あれだよあれ!!!」

本当はもっとからかいたいけれどこれ以上からかうと殺されかねないので話を続ける。

「あれはわかりますけれど、あれがどうしたんですか?」

「てめえがまた隠したんじゃねえのか?」

「嫌だな土方さん。僕は昨日は夜の巡察で遅く帰ってきたしさっきまで寝てたんだから隠せるわけないじゃないですか。」

するとすっと土方さんの顔から血の気が引く。

「じゃあどこに行ったんだ?」

「平助あたりが知ってるんじゃないですか?」

「平助かっ!?」

そう言って土方さんはばたばたと走っていく。

「まったく。騒々しいなあ。」

そう思いながらも面白いことになったと思い僕は微笑む。

ふっと隣を見るとあの煩さにも関わらず蝶は安らかに眠っている。

「あはは。どんだけ眠いの?」

僕が笑いながら話しかけても蝶は夢の中にいたままだった。