驚いて顔をあげると、「新しい国語の先生」と至近距離で目が合う。
まだ夢を見ているような、うつろな目だ。


次になんと、彼の手が私の頭にふわりと触れた。


突然の出来事に私は声を失った。
体中の神経が全て頭部に集まったかのように感じた。

ただただ混乱し、偶然目の前にあったその男の曲がったネクタイを見つめた。





『手。』

そう言われたので差し出す。

すると、先生の長い指の間から花びらが一枚、降ってきた。
頭に付いていたらしい。


『校長とおそろいだな。』


目や声に力はなかったが、
確かに彼は私に向かって笑った。

そしてあの歩き方を再開し、教室に入っていく。



残された私は茫然とその背中を見送った。

ひたすらに、茫然と。




姿が見えなくなると、隣でアコたちが自由に会話を始めた。

『なに?!近づいてくるからびびったー。』
『あの人なんかさえないよね、どことなく廃人オーラが・・・』
『うむ。私もう一人の新任の方が好きだな。』
『藤田先生でしょ?!私もタイプど真ん中だわー。』
『麗聞いてる?体育の先生がやばいんだって』

話をふられて我に返るが、私の頭の中は曲がったネクタイの残像でいっぱいになっていた。

また口角を持ち上げると、再びチャイムが鳴る。



私は少し迷ってから、手のひらの桜を窓から舞わせた。

ひらりひらり、それは気持ちよさそうに私の元から去っていった。