まるで愛しい人に接しているような。




「…まりな……行かないでくれ…頼む、ここにいてくれ……」




最低男はそう言って、更にあたしの手をギュッと強く握り締め何度も“まりな”と呼び続けた。




ここにその女がいるのを確認するかのようにあたしの手を何度も強く握り締める度に、その声で愛おしそうに“まりな”と呼ぶ度にー……



あたしの何かが少しだけ縛り付けられるような感覚に襲われた。





その時、春綺君があたしに言った言葉が頭の中に響く。




“あいつは…一番愛していた人に裏切られたんだ”




あたしはまだこの時、分からなかった。




何故こんなタイミングで春綺君が言った言葉を思い出したのか…




何故こんなにも縛り付けられるような感覚に襲われるのか…




あたしには一つも分からなかった。




だからあたしは、辛そうな顔をしながら息を上げて何度も何度も手を握り締めて名前を呼ぶ最低男をただ見ていることしか出来なかった。