悲しくはない。
悲しもうにも、その前に五十鈴さんが来てくれたから良かった。


一緒に住むと言い出していた五十鈴さんだけど、そこは僕が丁重にお断りをしといた。


正直、『それは嬉しい』と思っていたけど、藤馬さんの『ガキのせいで無一物になんのか』というような言葉があったから、僕はつい遠慮をしてしまった。


僕なんかのために五十鈴さんが全てを失うのは気が引けた。


彼女はそれでも、『家族だからいいんだ』とあくまでも住む方針で最初の一週間は一緒にいたが、毎日のように僕が一人でも大丈夫ですからと言ったせいか、『私との生活はやはり嫌なんだな……』としょげられた。


決してそんなことはないと言いたいけど、そう言ってしまえば五十鈴さんは無一物街道まっしぐら、このまま僕の家にいるだろうと濁した言葉しか出せなかった。