「…ねえ、何か感じない?」

クレタスを後にして、殺風景な風景に囲まれた道を歩いているときのことだった。
突然、アンネッテがそう言った。

「何かって?」

フェイが訊き返した、その刹那――彼の背筋に悪寒が走った。
咄嗟に後ろを振り返る。

「あれは……」

目を向けた先にいたのは、オッドアイの黒猫。
しかし普通の猫とは大きさが明らかに違った。

「……使い魔のように見えるけれど、違うわね」

使い魔とはまた別の気配を感じる。その気配に、アンネッテは身の毛がよだつ。

「魔力によって生み出された獣だな」

ディオンが言う。フェイやアンネッテに比べ、ディオンの表情はぴくりとも変わっていない。

 この気配は、魔力なんかじゃないわ……。
 あの獣からは、魔力が感じられない。

魔力とは比べものにならないほどの、恐ろしい何か。
アンネッテの背筋に、冷や汗が流れる。