「キアーロさま~~
 お待ちください~~」

 力が抜けるような、マウロの声に、キアーロは、面倒くさそうに振り返った。

 黒髪の王子の視線の先には、大木に囲まれた比較的整備された、とは言え峠道。

 人気の無い街道を徒歩で歩いている侍従長の姿を映していた。

 ここは、イデアーレ王国とリベルタ国の国境付近だ。

 キアーロに付き従っているのは、マウロの他に、黒猫しかおらず。

 なにやら大荷物を抱えた侍従長が間の抜けて見える。

 キアーロの足元にいる黒猫でさえ。

 呆れたように『にゃあ』と鳴いたぐらいだ。

 けれども、マウロはくじけずに、汗をかきかき言った。

「ほ、本当にドーニさまの隊を待たずに、ここまで来て良かったんですか?」

「当たり前だ。
 あんな奴いたとしても、足手まといだし、時間の無駄でしかない」

 幼なじみのドーニは、今や、国の四分の一の軍隊を預かる将軍だ。

 そんな者が国境付近を動けば、リベルタとの交戦になりかねない。

 表だっての言い方は、もっとも至極だったが、キアーロに別の感情が入りまくっているのが、マウロには、わかってた。