「あっ……!」

 今頃になって腰が抜け、倒れこみかけたわたしを、村崎先生は軽く支えて舌打ちした。

「歩けるか?
 それに……駅に着いたら一人ですぐ、帰れるか?」

「……ごめ……なさ……今は無理かも。
 でも、ちょっと休めば大丈夫……たぶん」

 わたしの返事に村崎先生はもう一度舌打ちする。

 と。

 突然ひよい、とばかりにわたしを抱えた。




 その……お姫様抱っこで。




「わ……きゃ……!」

 な、なに?

 恥ずかしくて思わずじたばたするわたしを、村崎先生はにらみつけた。

「騒ぐな。
 乗りかかった船だ。
 仕方ねぇから、最後まで面倒見てやる。
 ただし。
 オレはこれから外せねぇ用があるから、お前が家に帰るのは、一時間後だ。
 そして……」

 村崎先生の瞳が、獣のように光った。

「この今のオレのナリ(格好)や『紫音』っていう名前も含めて、これから先行く場所も他の誰かにバラすんじゃねぇ。
 親にも、友達にも。
 もちろん、学校の他の教師にも、だ」

「はい……先生……」

 わたしが返事をすると、村崎先生はその綺麗な顔の眉間に深々と皺を寄せた。

「それと、これから行く場所で。
 間違ってもオレを『村崎』とか『先生』とかって絶対呼ぶなよ。
 オレは『紫音』
 帰りまでオレは『紫音』だ」

 判ったか?

 と念を押されて、わたしはうんうん、とうなずいた。

 言っている先生の表情が……怖かったから。

 少し……いや、本当はかなり。