口の中で転がしてから飲み込むと、天冥はふと足を止めた。


「天冥・・・?」

「動くな」


 ぴりっ、と空気が張り詰めたのは天冥はもちろん、明道も感じ取れた。

 周りが静まり返るような、なんだか違う世界に足を踏み入れたような、そんな感覚だ。視界が僅かに揺れる。


「ほぅ」


 空気を感じ取ったと見える明道を見て、天冥は声を漏らした。


「明道、お前も見鬼(けんき)であったか」

「見鬼?」

「俺達に似たようなものさ。鬼を見て、感じ取る力じゃ」


 そう言う天冥は、胸元で外縛印(げばくいん)を結んでいる。ぼそぼそとこう唱えていた。


「オン・キリク・ナシャヤ・サタンバヤ・ハンハンハン・ソワカ」


 あ、これは、と明道は思った。

 大威徳明王哭に似ている。しかしその真言は本物とどこか違い、本物にあるはずの言葉がいくつか抜けている。


「天冥、真言が・・・」

「大丈夫だ。お前程度の人間の『呪力』を隠すなど、たやすい」