時は平安。


 ちょうど、藤原(ふじわらの)兼家(かねいえ)が勢力を伸ばしてきた頃の事である。


 さきほど天冥が殺したのは、身分が高くとも傲慢な役人だった。だからこそ、天冥が始末したのだ。


 いや、勝手に忍び込んだのだが。


 天冥は今年で二十三歳になる。


 身長は六尺ばかりで長身。その割にはほっそりしていて身体に無駄な肉は無い。目は鋭く吊り上り、唇は具合でも悪いのかと思うほどの紫色だ。


 肩より下に伸びた茶髪は、土を焦がした色になっている。


 天冥は築地を飛び越えて外に出ると、右京の大宮大路と六条大路の交差点に出る。

 ふと前を見ると、丁度、百鬼夜行の途中だった。


 化け狐、烏帽子を被った蛙と兎、赤鬼、付喪神(つくもがみ)、多種多様な妖(あやかし)達が大宮大路を通過していく。

 あれは、あははの辻だ。


 天冥はもちろん、その妖たちの目に留まった。


 これが徒人なら(そして妖たちが腹を空かしているなら)即行で喰われているところだが、妖達は天冥を見やると、ギョッと瞠目してゆく足を速めた。


「天冥じゃ」

「あの『外道の貴公子』の?」

「金子を受け取れば鬼おも殺す」

「気に触る人間には容赦なく焼きを入れるだとか」

「ばか。『焼きを入れる』ではなく『焼かれる』だろうが。それを言うなら」

「ああ。あやつは炎の使い手じゃからな」

「恐ろしや」