ラブリーピンク。

 最近地域で話題の魔法少女。

 夕のいう通り、たまにローカルニュースで取り上げられることすらある。


 ピンクの生地にリボンやフリルでふりっふりにふくらんだ衣装。

 キラキラの魔法のステッキから、キラキラしたビーム(ちなみに名前はラブリービーム)。

 騒ぎがあればたちまち駆けつけ。

 騒動の後始末、人員整理から、悪者退治まで。

 持ち前の俊足で痴漢やひったくりを逮捕することすでに十数件。

 ご近所の平和を守る、正義の魔法少女の正体は…撫子である。


 もちろん、そんな恥ずかしいことは誰にも言えない。

 知られたら、『ボーイッシュでかっこいい春野撫子』のイメージは崩壊する。


 ラブリーピンクであることを隠すための撫子の努力は、涙ぐましいものがあった。

 まず、絶対に人前であの恥ずかしい変身呪文を唱えない。

 変身場所の定番は女子トイレ。

 おかげでご町内のトイレの場所にやたらと詳しくなってしまった。

 それから、カツラ。

 テレビに映るラブリーピンクは、たてロールのツインテールである。

 わざわざ自分のショートカットから最もイメージの遠いものを選んだ。

 正直、戦闘中にカツラがとれたらどうしよう、などと考えると不安は尽きないが、それでもないよりましである。

 本当は、サングラスでもつけようかと思ったのだが、不審者っぽくなってしまったためやめた。


「夕もあんな衣装着たーい。陰陽師の衣装って全然かわいくないんだもん」

 喋り続ける夕に曖昧な笑顔を見せたとき、撫子のポケットの中で携帯が震えた。