麻生 久遠……奴は俺の彼女、
井上 香織の心を奪いやがったんだ。
奴と俺とは気の合う、親友だと思っていた。
そう思っていたのは俺だけ。
奴は俺から香織の心を意図も容易く奪いやがった。
ただ見つめあっただけで、だ。
香織は今、大人しく俺の恋人として側に居る。
だが、香織の心は未だ奴に囚われたままだ。
ああ、思い出すだけで虫唾(むしず)が走る。
胃からは怒りしか込み上げてこない。
あまりの怒りのために両の手を握りしめれば、
両手は握りすぎた所為か血が滞(とどこお)り、肌の色は白くなっている。
なあ、久遠。
俺がこんなに苦痛を抱いてるのに、お前だけが幸せになろうなんて、思ってないよな?
久遠……俺たちを引っ掻き回した挙句、ひとり幸せになろうと思うなよ?
苦しませてやる。
お前を、俺と同じように不幸のどん底に引きずり落としてやる!!
お前が大切にしている、その女を使ってな。
あの時……香織から手を引いた後にできた、彼女のように……。
あの女のように……。
そう思えば、体は軽くなったように感じる。
俺は喉から出てくる笑いを吐き出し、久遠と、
久遠が大切に想っているだろう女を見つめた。