『なあ、久遠(くおん)。

お前だけが幸せになろうとか思ってないよな?』


彼女が転校した後、ぼくは尚吾と話をした。


『人の彼女の心を奪うだけ奪ってさ、

おかげで香織はお前が離れた今でもお前を思っているんだ。


俺と香織の関係上は恋人だが、香織はお前に囚われたままだ。


なあ、香織の心を返してくれよ。

俺に返してくれよ!!』



そう…………言われた。





香織とうまくいっていない尚吾は今も根に持っている。




ぼくを恨んでいる。



手鞠ちゃんを、あんなふうにさせるのは、ごめんだ。







ぱちん!!



突然、乾いた大きな叩く音が聞こえた。

ぼくは我に返り、紀美子に少し近づく。



手鞠ちゃんは……右の頬を叩かれたようだ。

顔はうつむいている。



泣いているのだろうか。




泣かせたのは紀美子ではない。

ぼくだ。