オレンジ色に染まる校舎はとても静かで、リノリウムの上を歩く上履きのこすれる音が異様に多きく響いた。
 長い廊下を歩き目的の教室へとたどり着くと、少女は「2-A」というクラス表札を確認して扉を開き、教室の中を覗き込む。
「創星(そら)……お待たせ」
 乾いた音を立てて開かれた扉の先を軽く見まわして目当ての人物を捉えると、少女はその相手へと声をかける。
 創星と呼ばれた少女は、窓際に椅子を寄せて外を眺めていた。
「お帰り神秘(しんぴ)もう、いいの?」
 気怠げに外を眺めていた創星は、神妃に呼ばれると同時に、その表情を一変させ、嬉しそうに微笑んだ。
 その姿を見て、神妃は苦笑しつつも「大丈夫」と頷く。
「帰ろう。今日は早く帰らないと怒られちゃう」
「そうだね」
 神妃の呼びかけに、創星は嬉しそうに頷く。
 窓辺に引き寄せた椅子を机に収め、創星は駆け足で神妃の元へ来ると、当たり前のように腕を絡ませた。
 その行動に、神妃は眉根を寄せる。
「離しなさいよ」
「え~なんで? いいじゃない」
 嫌がる神妃を無視して、創星はお構いなしに更に絡めた腕に力を入れる。神妃は小さくため息を吐くと、解くことを諦めて歩き出す。
「今度の呼び出し相手は、部活の後輩だったんだね。凄くかわいい子だったね」
「覗き見なんてタチ悪いよ」
「覗いてなんかないよ。ちょっと見かけちゃっただけ~」
 あまり人が来ないような校舎裏にどうやったら”見かける”という場面になるんだか……神妃はその言葉を飲み込み、気を落ち着けるように深く息を吐く。
「もう、そんなことはしないで」
「何の事?」
「……もう、いい」
 あくまでもシラを切りとおす創星に、神妃は苛立ちを抑えて静かにそれだけを告げる。
 そして改めて隣を歩く創星を見る。
 創星は神妃の双子の姉だ。
 一卵性双生児特有の、鏡に映したように二人はそっくりの容姿をしている。親でさえもファッションや髪形を同じにすると見分けがつかないほど酷似している。
 にもかかわらず、創星だけが男子に人気があった。いつも男子から呼び出しを受けるのは創星ばかり、神妃は年齢と彼氏いない歴がイコールで繋がってしまうほど桃色の話がこない。