「―――――…うっ!」
バキッと鈍い音が響いて、彼の前に立っていた男の人が倒れた。あぁ、また………
彼の周りにはさっきまで彼に喧嘩を売っていた男達が倒れている。立っているのは彼だけ。
「スッキリしたー!」
伸びをしながら言う彼の表情は、ほんとにスッキリしていた。ストレス発散ってやつ?
"彼"というのは、伊藤達哉(イトウタツヤ)っていうあたしの彼氏。
「舞子、帰ろう」
そしてあたしは広田舞子(ヒロタマイコ)。達哉の彼女だ。
さっき喧嘩、きっかけはほんとに些細なことだった。あたしは隣にいたから知ってるけど、誰から見てもくだらない理由だったはず。
――――――――
―――――――――…
「おー伊藤じゃん。お前相変わらずちっせぇな。」
「あ?」
この時点で喧嘩が始まってしまうと察知したあたしは、すぐさまその場から離れた。
あーあ、またか。なんて思いながら。
「相変わらずちっせぇなぁって言ったんだよ!」
「おいコラ、言ったな」
ニヤリと笑った達哉は、そのままその男に殴りかかった。
――――――――
―――――――――…
…と、まぁ、ほんとにくだらない理由だったんだけどね。
勘弁してほしいよ。
喧嘩してる間に、もしあたしが連れ去られたりとかしちゃったらどうすんの?
…って、前に聞いたことあるんだけど…